面ファスナーとロック

「ロックミュージシャンは靴紐なんか結ばねえ」と言っていた友人は、かならず面ファスナーの靴を履いていた。彼はロックに忠誠を誓っていた。だから靴を脱ぐときもベリベリベリ!と音を立てて豪快に脱ぐ。聞けば、屈んで靴紐なんかをモタモタ結ぶのはカッコ悪いからロックじゃない、とのことであった。

その話を聞いた当時は、いやそのベリベリ音のほうがカッコ悪いよ、モタモタするのはお前が不器用なだけだよ、という感情ばかりが湧いたが、今の私はあのベリベリ音がむしろ好き、当時の彼への共感はまったくないが私に関してはここのところ特にこどもの靴が面ファスナーなのである。こどもの靴を、ベリベリと音をたてて脱がせるのがとてもたのしい。あの小さいふわふわしたあんよからベリベリと音がする、ちょっとしたアナーキーさ。アナキー・イン・ザ・ふわふわあんよ。わかる?この気持ち。親バカである。

そういえば成長とともにだんだん面ファスナーとは縁がなくなっていった。やっぱりあのベリベリ音に心地よさを感じなくなったからだろうか。
子供が生まれてから、しばらくご無沙汰だった面ファスナーがついた服などにたくさん再会したが、やはり面ファスナーはいちいち本当にうるさい。毎度剥がすたびに思う。本当にうるせえ。特に抱っこ紐なんかは面ファスナーの面積が広いので寝ている赤子を起こすくらいノイジーである。今はこども自身もどんどん騒がしくなってきたのであまり面ファスナーのうるささが気にならなくなってはきたが、音がうるさいという意味では面ファスナーはたしかにロックなのかもしれない。それでいえばこどももうるさいからロック。あ、もしかして君もそういう意味でロックだったのかい?友よ。

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