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突然だが、わたしの夫は東横インが大好きだ。

<東横イン>
どれくらい好きなのかというと、まず東横インクラブカードの会員だし、
東横インに泊まるたびにおしっこちびりそうなくらい興奮してるし、
部屋に置いてある東横インの雑誌「たのやく」を必ず持って帰ってくるし、
東横インのグッズが欲しいがゆえにヤフオクで「東横イン」とキーワード登録
しているくらい。
…異常だ。
ではなぜ東横インが好きなのか?その理由を書くと、
それだけでブログが終わりそうなくらい長くなるので省略するが、
むかし彼は東横インに泊まったとき、こんなことをつぶやいてた。
「いつかボクが巨万の富を手に入れたら、自分専用の東横インをつくるんだ」
そのときは、ああそうですか。と流してしまったが、
しかし昨年、まだ結婚しておらず付き合っていた頃のこと。
彼の記念すべき40歳の誕生日になにかしなくては、と考えていたところ、
わたしはその「自分専用の東横イン」という言葉を思い出したのだ。
そして思いついた。
よし。彼専用の東横インをプレゼントしよう、と。
〜これはわたしが東横インをプレゼントしたことによって結婚するに至る、
新手かつ荒手のサクセス・ストーリーである。〜
■東横インをプレゼントするには
これほどまでに東横インと書いたあとに聞くのもなんだが、
みなさんは東横インというビジネスホテルをご存じだろうか?
東横インは、都内の主要駅各所、また地方では複線が通るターミナル駅などの
周辺でよく見かける、格安のビジネスホテルだ。
場所によってはなんと3,800円から泊まれるので、
ビジネスマンや宿代をおさえたい旅行者からの信頼も厚い。
そんな東横イン、見た目がわりと特徴的で、ビジネスホテルの外観としては
トップクラスのフォーマット力というか、
とにかくわかりやすく覚えやすい色形をしている。

<この色合いがいい>
彼専用の東横インをプレゼントする…そんなことできるのか。
フン…諸君。その心配は無用だ。
この夢のプレゼントを贈るには、巨万の富を得る以外に
「建築模型をつくる」という方法がひとつ残されているのだよ。

<家を建てたりするときによく見る、アレ>
建築模型とは、実際の建築物を計画する際に
説明やプレゼンのためにつくられる模型のことだ。
つまり、あのデカい東横インを何百分の1かに縮尺して、
模型にしてプレゼントする。
おお、これならいけそうじゃないか。
と思ったものの、建築模型を作った経験はまったくない。
むむ、どうしたものか…
とりあえず、建築にくわしい友達に相談してみようか。
はたして無器用なわたしでも作れるもんなのだろうか…

<東横インを作るまでのだいたいの流れをおしえてもらう>
細かい材料の買い出しを手伝ってもらい、ひとまずなにから始めればいいかを
丁寧に絵で説明してもらった。
基本は、1つの表面を1枚のパネルとして作り、それをつなぎあわせていくらしい。
わからなくなったら、あせって作らずに頭の中で立体を分解してみること。
そんなこといわれても、頭の中で分解できませんよ…と思ったので、
考えずにやってみることにした。失敗したら誕生日に間に合わないけど。
■さっそくつくってみよう
段取りを把握したところで、さっそく作りはじめる。
通常、建築模型は白無地で作ることが多いらしいのだが、
わたしは東横インが作りたいのでそういうわけにもいかない。
あの絶妙な色合いを出すべく、パネルに色画用紙を貼り合わせなくてはならない。

<こんな感じで貼り合わせる>
この時点でだいぶ困惑しながらの作業である。
だって、パネルがデカいんだもん。
考えないで適当に採寸したおかげで、
このままでは完成時のサイズは60cm超になりそうである。
どうやってむこうの家まで運ぶんだよオイ。

<このようなプラスチックの棒をくっつけていく>
あと、東横インらしさを強調するために必要な窓枠。
これもひとつずつ、こまかい手すりの部分まで作る。
いやはや、想定はしていたが、思った以上に細かい作業の繰り返しなので、
仕事帰りの疲れた状態でやるには目にくる。
それでも、毎日こつこつやっていくとそれなりに形になってきて、
そのたびに我が子がスクスクと育っていくかのような感動を覚えるのだ。

<看板は要の部分だから丁寧に>

<ただのパネルだったのが、クララのようにすんなり立った。>

<ベランダも丁寧につけなくちゃね>

<入口と縦看板もしっかりと>
ここまできて、東横インという建物そのもの自体は完成してきた。
しかし、なにかもの足りない。建築模型に良くある木か、道路か…
木製のパネルを買ってきて、それを地面にして花壇でも作ってみようか。

<急にそれらしくなった>
ヤバい。東横インだ。
まごうことなき東横インだ。
このパネルの上に乗っているエリアすべてが、東横インの敷地なのだ。

<木と、ちょうどよいサイズのクルマをおいて>
ここまでくると、もうプレゼントとかそういう領域を超えて、
「自分の作品」として愛すべきものができてしまった気がする。
でも、すばらしいものを作ったナルシズムなど、
わたし自身まったく感じることはなかった。
だって、わたし、東横イン興味ないし。

<完成した!!>
できた。
なんかもう、わたしの部屋に東横インがそびえ立っていること自体、意味不明だ。
もちろん、意味不明なプレゼントをすることが目的だったが、
最終的に60cmを超える大きさになったため、意味不明さもひとしおだ。
あとはこれを誕生日の夜こっそり家においておくだけだ!
■ハッピーバースデー
誕生日当日。
当時わたしが住んでいた西巣鴨から彼の自宅まで1時間くらいかかる。
電車が混雑しない始発電車に乗って持って行こうと思っていたのだが、
なんと外を見ればドシャブリではないか!

<いそいで余ったパネルとビニールで梱包する>
これだけのデカさだと抱える形になるため、傘も差せない。
ぐぬぬ、と意を決して電車で行くことを決意し、
(タクシーだと万単位になりそうだったのであきらめた)
ビッショ濡れになりながら家の中にこっそり置いてきた。
そして夜、仕事からまっすぐ家に帰ってきた彼は、
ドアを開けるなり、過去みたことないくらいに大爆笑していた。
彼も40歳。いろんな恋愛遍歴があるだろうが、
さすがに過去に東横インをプレゼントした女はいるまい。

<部屋にかざってもらった。デカい。>
このできごとから1年くらいたって結婚したので、
直接このプレゼントが結婚につながったかというとそうではない。
そうではないが、確実に今の夫の中では雷に打たれたように
心が震えた誕生日だったに違いない。
サプライズプレゼントというのは、自分本位でも相手本位でもなく、
お互い本位でやらねば意味がないのだ。

<新居にもちゃんと持ってきた。いつか東横インに住みたい(気がしてくる)>
結婚して、一緒に暮らしていく中で、乗り越えなくてはならない苦難に
立ち向かうときが、必ずやってくるだろう。
でも、わたしはそのとき、そのたびにこの東横インをみて、思いだしたい。
楽しければなんとかなるもんさ、と。
<余談>
引っ越しの見積のとき、営業の人が家に上がったのだけれど、
「旦那さまは建築関係のお仕事を…?」と言っていた。
まあ、そう思うよな。