こどもらしいエピソードの一つに
「遠足が楽しみで夜寝れない」というのがある。
ふと気が付くと、最近はそんな無邪気な理由で寝つけないことはなくなった。
明日は社外プレゼンだから寝れないとか、寝たら朝が来るのが怖くて寝れないとか、
常に社会に切迫される私たちは、涙ぐましい理由で寝つけないことばかりだ。
しかし、大人になったいまだって、たまには思い切り無邪気になりたい。
屈託のない笑顔で「ヘケ!」とか言いたい。
だから行こう。大人だけど、大人だから、遠足に。
(行くぜ!遠足!)
■ 上野動物園で遠足をしよう
ということで、唐突ではあるが友人と私を入れた4人で
上野動物園で遠足へ行く、『大人の遠足』を急きょ企画。
社会に疲れた人々が参加するこの大人の遠足には、
気軽に童心に帰れるアイテムが必要だと思い、
「紅白帽」と「絵日記」を用意した。これで遠足気分も上々だ。
(無邪気な自分を取り戻すための遠足グッズ)
要は、みんなに紅白帽を被ってもらい、宿題の定番である絵日記を描いてもらうスタンスである。
大人になって、強制的に絵を描かされることもそうそうないので、
おもしろい絵日記を描いてくることは必至だろう。
思いつきにしてはいいイベン…遠足になりそうだ。
(遠足のしおりはPDFで送った)
企画が決まってから気が変わらないうちにすぐ日取りを決めた。
6月2日(日)午前10時に公園口改札集合、と連絡網でなく各自にメールで連絡。
しおりがPDFというののも非常に大人っぽいが、気持ちは童心である。
大人だって、楽しいことのためには全力を尽くすのだ。
■ 6月2日(日)晴れ
待ちに待った、遠足当日の朝。
「寝坊しました」というメールが3人中3人から届いた。
(遅れますメールが続々)
みんな実家を離れているから、朝起こしてくれる人がいない。
朝寝坊せねば親の恩は知れぬ、とでもいうのか、
大人になるということは、お母さんのありがたみを知るということなのかもしれない。
集合時間から1時間ほど経って、遅刻した友人たちがやっとやってきた。
(私は大人なので喫茶店で暇つぶしてた)
痺れを切らした私は、さっそく遠足グッズを配り、紅白帽を被るよう促すが、
みんなやや恥ずかしがっている。
それもそのはずだ。われわれは大人なのだから。
(紅白帽がはいらないのも大人だからだ)
(私は一時間前からかぶっているので大分なじんできた)
若干1名がまだ到着していないが、時間も押しているので
とりあえずこの3人で紅白帽をかぶって上野動物園にむかうことにした。
■ いざ、入園
入り口前で券売機の列に並び、入場券を買う。
「大人:600円 小学生以下:無料」
この扱いの差に一瞬めまいがしたが、社会人だからきちんとお金を払った。
紅白帽を被った大人が入場券を切ってもらう様は、なんとも形容しがたい光景だ。
(帽子を被っているだけなので決して迷惑行為ではない)
とりあえず入園したところでひとつ絵日記を描いた。
ちなみに、これからも園内を回るごとに随所で絵日記を描くかたちで遠足が進行する。
(みんなわりと真剣に描く)
デザイン科を出てる私たちは、多少なりとも絵に親しんで生きてきた。
巧拙はともあれ、描くということは楽しい。
久しぶりにペンと紙を持たされて、ワクワクする様子がみんなからうかがえる。
描いてもらった絵日記すべてを紹介するのはスキャンが面倒なので、
ハイライトでご紹介したい。
(作・やっぱんつ:実際に結構見られた)
初の絵日記を書き終えしょぼしょぼと進んでいくと、長い行列に遭遇する。
そう、上野といえばこの行列の先にいるパンダだ。
出産を控えたパンダのシンシンは、近々公開が中止になるとのことで、
週末で観れるのは今日が最後らしい。
元気な子を産めよ、シンシン。
(銃殺されたようにも見える)
(作・なっちゃん:毛の多さをクーピーで表現できない)
その後も動物を見ては立ち止まり、絵日記をもくもくと描いた。
描いていくうちに、絵がヘタクソな自分にムキになってきたのか、
無駄に気合いを入れて没頭する大人たち。
が、気合いを入れたところでヘタクソなものはヘタクソであった。
(作・マクモさん:単純に気持ちが悪い)
(作・なっちゃん:想像で描いた性欲の強そうなトラ)
(作・やっぱんつ:私の絵日記はなんでこんなに汚れてるのか)
そこら辺の小学生が描いた方がうまいんじゃないか、と思えるクオリティだ。
学生時代にデッサンをやっていたとは思えない出来である。
このヘタクソさをなにかのせいにしたいところだが、
ダイソーで買ったクーピーは100円にしてはなかなかの品なので、
やはりわれわれに決定的に絵のセンスがないことが原因であるといっていい。
そんな有様に落胆しているところで、遅れてきたもう一人がやってきた。
(人数が増えるとそれなりにおかしい)
後からやってきたまみちゃんは、一言でいうと毒舌だ。
歯に衣着せぬトークで周囲の信頼を一気に集めている(どんな表現だ)のだが、
そんなまみちゃんが席に着くなりこういった。
「うち、動物嫌いやねん」
耳を、疑った。
こどものように遠慮のない言葉が砲丸のように飛んできたのだ。
だって、まみちゃんに「どうぶつが、きらい」と言われるのは
「ぱんつさん、きらい」と言われるようなものだ。
私がこの動物園遠足の主催者なのだから。
この一言で一気に継続の危機にさらされた大人の遠足。
果たして、無事遠足は感動のフィナーレを迎えられるのか!